さよなら“オミー”
オミーとの出会いは、ちょうど6年前のことだった
ジャケットを羽織り、夜なのに、レイバンのサングラスをはめ
一見、紳士風な男が、ドアを開けて入ってきた
「紹介で来たんだけど・・・」
と、一言いい、カウンターの片隅に腰をおろした
「C.Cストレートで」
と告げ、おもむろにポケットから小説を取りだし、“ロングピース”の煙草に火を付けた
「お待たせしました」
「あ・り・が・と」
オミーは、読みかけの小説に目を傾けた
“ずいぶんカッコいい人だなぁ”
と思いきや
携帯を“ピコピコ”いじり始めたあげく
結局、寝始めた・・・
そこに、紹介相手の“由香”が現れた
「オミちゃん、おまたせ!」
オミーは、由香に
「遅いから寝ちゃったよ」
と言いながら、目を覚ました
ふたりの関係はどう見ても、お客とホステスである(オミーは彼女と付き合っているとは言っていたが・・・)
しばらくすると、由香が
「いい加減にしてよ」 「私、もう帰る」
と血相を変えて怒りだした
オミーは、必死で、由香に
「ごめんなさい」
と誤っているが、由香の機嫌は直りそうもない
そこで、オミーのとった行為は
『土下座』
“おいおい、バーのカウンターの下で何してんだよ・・・”
と思ったが、他のお客さんが面白そうに見ていたので、そこは見逃した
由香が
「オミちゃん、やめてよ」
恥ずかしそうに、周りの目を気にしていた・・・
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そんなオミーだが、実は西荻窪の“ぼん”である
幼い頃から周囲に大切にされ、可愛がられてきたらしい
オミーは酔うと、幼い頃亡くした父親の話をよくしていた
商社マンだった父親が、海外から帰ってきた時には、いつも
いっぱいのおもちゃを、オールドパーの木箱に詰めて持ってきてくれたこと
ボトルシップを一緒に作ったこと
父親のようにうまく作れなかったこと
何度も、何度も、同じ話をしていたことを想い出す
また、美容師だった母親が最近、呆けてきたと、よく呟いていた
そんな優しかった母に、オミーは迷惑ばかりかけていた
飲んでは“弱いくせ”に暴れて警察にお世話になったり
アル中で入退院を繰り返したりと・・・
最後の最後まで
なんで、また母の日に・・・
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人を疑うこともなく、素直で純真であった“オミー”
純粋すぎて偶に度が過ぎるところもあったが
誰もが“オミー”のことが好きだった
カッコつけても、様にならないところも憎めなかった
誰よりも優しく、人一倍傷つきやすかった“オミー”
今でも、この辺りで飲んでんじゃないのか?
オミーに出会えたことは、一生忘れないよ
「ありがとな、オミー」・・・献杯!